作品が映えるDIY空間アーティスト夫妻の
おおらかな住まい
建築的価値もある築29年の集合住宅
都内の緑豊かな住宅街に建つ、レトロな5階建て集合住宅の最上階。動物や子どもをモチーフにしたちょっと不思議でインパクトのある絵画や立体作品に囲まれたこの家に暮らすのは、ともにアーティストとして活動する小飯塚祐八さんと奥さまの清香さん(アーティスト名:cicci)、そして娘さん、息子さんの4人家族だ。
“創作活動ができる空間があること”を条件に、戸建て・マンションにこだわらず家探しをしていたという小飯塚さん夫妻。5年前にインターネットで見つけたというこの家は、アトリエも十分に確保できる80平米超のゆとりある間取り。
「四方が開いていて光や風が抜ける感じと、L字型の広いバルコニーが気に入りました」と祐八さん。さらに「ここはレーモンド設計事務所が手がけた物件なんだそうです。当時築29年で多少不安もあったんですが、住む価値があるんじゃないかと思って」。
設計の仕事に携わる弟さんからも太鼓判を貰ったことから、購入を決めたのだという。
友人たちの力を借りてDIY
改修は、友人である大工の井坂有裕さんの力を借りながら、かつて住宅補修の仕事をしていたこともあるという祐八さんが舵を取って進められた。
まず、住まいの中心であるリビング・ダイニングを広くするため、隣接していた和室の畳や襖を取り払い、ひと続きの空間に変更。より一層明るく、風が通り抜けるようになった。
また、クッションフロア敷きだった床は、すべてナラ材の床板に張り替えた。「エレベーターがないので、大工さんと私で5階まで何度も往復して床材を運んだんですよ」と笑う祐八さん。「最初は木の色が白っぽくて足触りもパサパサだったんですが、蜜蝋を塗ったらいい雰囲気になりました」(清香さん)。
さらに、壁はすべて漆喰塗りに。「友人5〜6人に焼肉をおごって手伝ってもらったんですが、最後は疲れすぎて全員無言になるくらい大変でした」と笑いながら振り返る祐八さん。リビングの一部には薄いオレンジ色、廊下にはピンク、寝室には黄色など、顔料入りの漆喰も使って個性的かつDIYならではの味わい深い仕上がりになった。
一方、予算の都合もあり、キッチンやお風呂などは既存の設備をそのまま活用。不便なところもあるというが、「最新設備のように全自動じゃないから手がかかるんですが、そういう付き合い方も好きなんですよね。これからゆっくり手を加えていこうと思います」(祐八さん)。
作品を魅力的にディスプレイ
祐八さん曰く「改修前は殺風景だった」という空間は、手を入れたことによって居心地の良いあたたかな雰囲気へと生まれ変わった。その一端を担っているのは、壁に、天井に、トイレにと、家中に飾られているアートたちだろう。夫妻の作品だけでなく、お子さんたちの描いた絵や工作、清香さんのお母さまが手がけた和紙作品など、素材やテーマもバラバラなのにさすがのセンスで違和感なくディスプレイされているのが、小飯塚邸のおもしろいところ。つくり込み過ぎないおおらかな住まいが、こうした作品ひとつひとつをより魅力的に見せているのではないだろうか。