和のしつらえ「七夕」神聖な青竹に、 星空の金銀砂子を再現

和のしつらえ「七夕」神聖な青竹に、
星空の金銀砂子を再現

織姫と彦星の星伝説の起源

日本の繊細な季節の移ろいを大切にした花を届ける『花屋 務』の橋本冠斗さんに、日本文化の魅力を再発見できる七夕のしつらえをご案内いただいた。

旧暦の7月7日、織姫と彦星が年に一度だけ出会うという七夕の物語は、中国の神話に由来する。
天空の神「天帝」には、「織女(しょくじょ)=織り姫」という娘がいた。織女は神々の衣を織る仕事に励んでおり、天の川のほとりで毎日まじめに機(はた)を織っていた。天帝は、川の対岸で牛の世話をする誠実な青年「牽牛(けんぎゅう)=彦星」と引き合わせ、ふたりは結婚する。
しかし結婚後、ふたりは遊んでばかりで、織物も牛の世話も疎かに。神々の衣はすり切れ、牛たちはやせ細ってしまった。怒った天帝は、ふたりを天の川の両岸に引き離してしまう。
悲しみに暮れるふたりは涙にくれ、仕事も手につかなくなってしまう。そんな様子を見た天帝は、ふたりが心を入れ替えて働くことを条件に、年に一度、7月7日の夜に再会することを許した――これが、現在広く知られている七夕伝説のあらましである。

「青竹は古くから神聖な植物とされ、結界や魔除けに使われてきました。七夕では、願い事を書いた短冊をまっすぐに伸びる笹の葉(青竹)に飾ります。その竹を使い、七夕のしつらえを作りました」

青竹の中に苔を敷き、キラキラと光る金粉で星空を演出。

青竹の中に苔を敷き、キラキラと光る金粉で星空を演出。

織り姫は仕事は機織り。美しい西陣織の筒の中に青竹を仕舞う。

織り姫は仕事は機織り。美しい西陣織の筒の中に青竹を仕舞う。

七夕の世界観を、しつらえに集約。機織りの町、京都にとって、織り姫の物語は象徴的な存在。巾着には商売繁盛・金運上昇の願いも。

七夕の世界観を、しつらえに集約。機織りの町、京都にとって、織り姫の物語は象徴的な存在。巾着には商売繁盛・金運上昇の願いも。

竹に宿る七夕の夜空

青竹を七夕に用いる風習は、願いを天に届けるための神聖な儀式であり、魔除けとしての意味も持つ。こうした習慣は江戸時代ごろに定着したとされる。
「当時の民家では、軒先に長い竹を立ててその高さを競い合うように、七夕の風景を飾っていたようです」

青竹は視覚的にも涼しげで、夏の風物詩としても親しまれている。

今回、橋本さんが手がけたのは、竹の“節”を活かして花器として楽しむ「竹筒飾り」。
「青竹はそのままだと白っぽく見えるので、藁でこすって表面を磨くのがポイントです」

用意するもの。左から、青竹、西陣織の袋、オアシス、金箔、砂子筒、苔 (ホソバオキナゴケ) 、はさみ、ヒモ、筆、カッター、ノミ、木槌、のこぎり。

用意するもの。左から、青竹、西陣織の袋、オアシス、金箔、砂子筒、苔(ホソバオキナゴケ)、はさみ、ヒモ、筆、カッター、ノミ、木槌、のこぎり。

青竹を磨く。藁で青竹の表面の白い粉を落とすと、乾いても白っぽくならない。

青竹を磨く。藁で青竹の表面の白い粉を落とす。シリコンスプレーをかけて仕上げる。

青竹に蓋を作る。ノコギリで2箇所に切れ目を入れる。

青竹に蓋を作る。ノコギリで2箇所に切れ目を入れる。

ノミで縦に切れ目を入れる。

ノミで縦に割る。

蓋に2箇所、穴を開ける。

蓋に2箇所、穴を開ける。

穴にヒモを通し、つまみを作る。

穴にヒモを通し、つまみを作る。

金箔で星降る宇宙を表現

竹の中にホソバオキナゴケを敷き、笹の葉を挿し、仕上げに金粉をふりかける。砂子筒に金箔を入れ、筆でふるえば、苔の上に星屑が舞うような風景が現れる。
青竹の蓋を開けると、金箔がきらめく小さな宇宙。

「紫色の桔梗(ききょう)を添えても良いですね。星のような形の花を咲かせる桔梗は、古くから七夕に飾られてきました」。

青竹の中に水を吸わせたオアシスを入れる。

青竹の中に水を吸わせたオアシスを入れる。

ホソバオキナゴケを敷く。

ホソバオキナゴケを敷く。

竹の葉を飾る。

竹の葉を飾る。

砂子筒に金箔を入れる。砂子筒は日本の伝統技法、砂子表現を行う際に使う竹製の筒。

砂子筒に金箔を入れる。砂子筒は日本の伝統技法、砂子表現を行う際に使う竹製の筒。

笹子筒に入れた金箔を筆でつつくようにふるうと、網目から細かな金箔が出るしくみ。星屑を散らせて楽しもう。

笹子筒に入れた金箔を筆でつつくようにふるうと、網目から細かな金箔が出るしくみ。星屑を散らせて楽しもう。

『花屋 務』の橋本冠斗さん。季節のしつらえを発信・販売。ワークショップやイベント、ホテルやショップの装花で活躍中。

『花屋 務』の橋本冠斗さん。季節のしつらえを発信・販売。ワークショップやイベント、ホテルやショップの装花で活躍中。

短冊に込める技芸上達の願い

「織姫は機織りの神として、技芸の上達を象徴する存在です。そのため、七夕には技術や芸事の上達を願うようになりました」

江戸時代以降、願いを込めて五色の短冊を吊るす風習が広まった。
それぞれの色には、以下のような意味があるとされている。
青:人間力を高める
赤:祖先や親への感謝
黄:人への感謝の気持ち
白:決まりごとを守る
黒:学業の向上

「かつては、サトイモの葉にたまった夜露を“天の川のしずく”と見立て、その露で墨をすり、梶の葉に和歌を書いて願い事をしていました」
神聖な木として古くから祭具に用いられてきた梶の葉は、今でも特別な存在。和紙で梶の葉をかたどり、笹に飾るのも風情がある。

「七夕伝説で、織姫は神々のための布を織る仕事をしています。機織のシャトルを船に見立て、天の川を渡る帆船を作りました」

「七夕伝説で、織姫は神々のための布を織る仕事をしています。機織のシャトルを船に見立て、天の川を渡る帆船を作りました」

アンティークのシャトルに和紙の帆を立てた。

アンティークのシャトルに和紙の帆を立てた。

笹に五色の短冊を飾る。

笹に五色の短冊を飾る。

色つきの和紙の短冊と、カジノキの葉。昔は梶の葉に墨で願い事を書き、笹に飾ったと伝えられている。

色つきの和紙の短冊と、カジノキの葉。昔は梶の葉に墨で願い事を書き、笹に飾ったと伝えられている。

Ranking Green