
洗面を玄関に柔軟な発想で田の字型間取りを
魅力に変えた建築家の自邸
斜めに光と風が通り抜ける家
設計事務所を独立し、2025年に一級建築士事務所『SAKe.(サケテン)』を構えた酒井健太郎さん。
両国の築42年の58㎡マンションをリノベーションし、仕事場もここに作った。
元々の間取りは、1980年代のマンションによく見られる縦長の田の字プラン。両隣に住戸、開口部は共用廊下とバルコニーという一般的な間取りをどうリノベーションしたら心地よい住まいになるかを考えた。
「廊下のようなスペースをなるべく減らし、生活空間を広げることに注力しました」
洗面スペースを玄関に作ることで、廊下を短縮し、空間を有効活用。
「洗面カウンターは腰より低い位置にあるので、玄関が広々とした印象になりました」
そして、仕事場からリビングまで空間を雁⾏するように配置することで、斜めの視線の広がりを確保した。
「部屋のどこからでも、バルコニーの外の景色が感じられます」
光と風が通り抜ける家が完成した。

モルタルのカウンターのデザインがモダンな洗面。モールガラスを使った室内扉は酒井さんがデザイン。把手の意匠が美しい。

「洗面スペースを別に設けると廊下が長くなってしまうので、玄関に設置しました」。間接照明のついた円形の鏡はamazonで。

左側の扉の奥がワークスペース。右側が玄関。壁沿いにたっぷりとした容量の収納棚をすっきりと造作。

造作の建具。左右で建具中央のラインを揃えている。

健太郎さんのワークスペース。デスクはDIY。

仕事場からリビングまで長いスパンで視線が抜ける。

段差はRをつけたデザインに。
透明性の高い建具やカーテンで空間を分ける
モールガラスを使った建具は健太郎さんのデザイン。寝室とリビングを仕切ることができるレースのカーテンは実紗さんが仕立てた。
「透明性の⾼い建具やカーテンを使い、家族と繋がりつつ、たまには1 ⼈になれるような空間を作りました」
たっぷりと収納できる造作家具も健太郎さんがデザインしている。把手のフォルムを建具とリンクさせている。
「施工はウェルカムトゥドゥにお願いしました。前職ではホテルやオフィスを手掛けていたので、住宅のリノベーションに強い施工会社は、書籍を見て探しました。TOKOSIEの書籍『マンション・リノベーション傑作事例集』も参考にしたんですよ」

R加工を施したダイニングテーブルの天板はネットでオーダーした。

健太郎さんと実紗さん夫妻。床はフローリングと塩ビのタイルの組み合わせ。「塩ビのタイルは耐久性が高く、色も気に入っています」

寝室のベッドサイドには読みかけの本やメガネなどを置けるニッチを作った。「光が当たると光沢感が出る、特別な塗料を使って壁を塗りました」

知人から譲り受けた畳ベッド。「来客時はマットレスを片付けます。遊びに来た子どもたちが畳の上で遊んでいます」

ベッドをレースのカーテンでクルリと囲み、ゆるやかに空間を分ける。「天蓋付きのベッドに寝ているような、包みこまれる安心感があります。カーテンはなかなかイメージに合うものに巡り会えず、生地を買って自分で縫いました」
既存の梁が物干しに!?
「既存の梁は、今回のプランニングとは切り離して考えることにしました。梁を現しにして残したことで、⻑⼿⽅向に対して視線の抜けを助⻑する役割も果たしています」
ユニークなのがその梁にL字のアングルを取り付けたこと。
「洗濯物を干す場所を考えていた時に思いついたアイディアです。L字アングルにハンガーをかけて干せばいいんじゃない?と。来客の上着を掛けることもあります」

かつての田の字レイアウトの名残りが残る窓は、大きなカーテンでつなげる。

キッチンは『toolbox』。

造作の収納棚は酒井さんのデザイン。

奥にしまった本のタイトルが見えるように段差をつけた。

梁にL字アングルをつけて、ハンガーをかけるアイディア。「お客さんの上着をかけたり、洗濯物を干したりと、大活躍です」
