廃れ行くものを活かして新進気鋭の空間が生まれる
ゆったりと時が流れる廃工場
“もったいない”が始まりだった
剥き出しのコンクリートや、武骨な古材・廃材を使った空間が、TO KO SIEでも人気の工務店「YUKUIDO」。そのベースは、台東区・東上野の路地裏にある。かつてメッキ工場だった建物を改修した「ROUTE89 BLDG.」は、事務所であり工房、そして人が集まれるオープンなスペースでもある。昔ながらの下町の風情が残る住宅街にある、その一角を訪ねてみた。
「ここは工場で使われていたものや、以前私がやっていた海の家で余った板など、在りものを使って造りあげた空間です。もともと廃材を扱う仕事をしていて、もったいないと思って使ってみたのが始まりなんです」と、代表の丸野信次郎さん。
「YUKUIDO」では、リノベーションだけでなく、解体現場から持ち帰った廃材、お客さんから支給された素材などを使って、家具も制作。鉄のフレームの大きな階段が圧巻の工房では、制作途中や完成後のオリジナル家具も目にすることができる。
都心のコミュニティスポット
「ROUTE89 BLDG.」とその向かいに建つ「ROUTE BOOKS」では、リノベーションの相談だけでなく、「YUKUIDO」のものづくりの雰囲気を様々な形で味わうことができる。
「置いてある廃材は勝手に持っていってもらってもOKなんです。でも家で何か作るのだったら、ここで作ってもらってもいいかなと思って始めたのが、ワークショップです」。
工房ではプロが使う工具を使って、職人さんのアドバイスを受けながら家具を自由に制作することができる。参加費・廃材はなんと無料だ。リラックスしたいときは「ROUTE BOOKS」でゆったり本を読んだり、お茶の時間を愉しんだり。味わいのあるオリジナルの家具と溢れるようなグリーンが癒しを与えてくれる。
「植物は廃材との相性がいいんです。色々集めているうちに増えていったので、店でも販売することになりました」。
そんな自然の流れから、毎年開催されているのが“ROUTE COMMON crafters market”。コロナ禍を経て今年3月、3年ぶりの開催となった。雑貨や器、フードなどの作り手たちが、それぞれの作品を出品。ミュージシャンによるライブも行われる中、近隣から遠方まで、たくさんの人が集まり交流できる場となっている。
陶芸体験で土に触れてみる
「ROUTE BOOKS」の2階では、陶芸教室「陶庵」もほぼ毎日開催。ビギナー向けの体験レッスンと、定期的に通える創作レッスンを行っている。
「週末はたくさん人が集まりますが、平日は割とゆったり、マンツーマンでレッスンすることが多いですね」と、陶芸作家の荒井彩乃さん。
九谷焼で使われる石川県の白土を使って作陶。自分の作りたいお皿や湯呑み、茶碗などを、一から指導してもらいながら作ることができる。今回、電動ろくろを体験してみた。
「大切なのは優しい力から始めることです。力は徐々に入れるようにしていきます。ポイントをお教えしますので、どなたでも素敵な器が完成しますよ」。
土に触れると不思議と心が温まり、穏やかな気持ちに。ゆったりと時が流れるかのような空間で、ものづくりと触れ合う時を愉しみたい。