楽しく美味しいコンポスト都会のベランダで始める
エコフレンドリーな暮らし
持続不可能な流れを止めたい
家庭から出される生ごみなどの有機物を、微生物の働きを活用して発酵・分解させ、堆肥を作るコンポスト。古くから伝承されてきた生活の知恵が、今また見直されている。
「ローカルフードサイクリング」代表のたいら由以子さんは、約30年に渡る試行錯誤を経て、オリジナルの『LFCコンポスト』を開発。
「自分自身の体験がきっかけになりました。病気になった父に食べさせたい無農薬野菜が簡単に手に入らなかったのです。その時、長年堆肥を作っていた母から手習いでコンポストを始め、自分でも野菜を栽培しました。そして食を変えたら父は健康になり、命が2年延びたのです」
同時に考えたのは、当時まだ幼かった長女が、この先どうやって生きていくべきかという、未来のこと。
「食べている食材も捨てている生ごみも同じ栄養なのに、おいしい食材だけは摂取して生ごみは破棄する。そのほとんどが焼却されて二酸化炭素を排出し、温暖化の影響を招いています。これでは一方通行で、未来まで持続させていくのは困難です。この流れを変えなければならない、その想いが活動の原点です」
手軽に始められるコンポストを
年々深刻さを増している異常気象。世界的な気候変動を調査するIPCC(気候変動に関する政府間パネル)でも、私たちのライフスタイルが温暖化に大きな影響を与えていることが発表されている。今、ひとりひとりの行動変革が必要、とは分かっていても、何から始めればよいか分からない、という人が多い。
「気候変動に対して何かしたいという人に、コンポストを始めていただきたいと思っています。忙しい毎日でも小さなスペースでも、手軽にできるコンポストを使うことで、小さな循環が大事だということを多くの人に気づいてもらう。それが私たちの役割です」
たいらさんが一貫して追求してきたのは、“都会でも、誰でも、楽しくできる”ということ。そして生まれたのはマンションのベランダに置いて映える、シンプルでスタイリッシュなデザインの『LFCコンポスト』。バッグ型で持ち運びやすく、ファスナーを閉めることよって虫が入りにくく、ニオイも少ないという、ありがたいキットだ。
1日約1分のエコ活動
“都市型コンポスト”と呼ばれるそのキットは、専用のバッグと中に入れる基材、取扱い説明書がセットになっていて、ベランダなどの屋根のある屋外で利用する。1日約400gの生ごみが約2カ月間投入可能で、その活動は1日1分程度。そして約2カ月後、生ごみの投入をストップし、3週間ほど熟成期間に入る。
「分からないことや心配なことなどがあれば、ラインでアドバイザーがサポートするので、お気軽にご相談していただければと思います」
ローカルフードサイクリングでは、できあがった堆肥の回収や相談会、これからコンポストを始める人向けのオンライン講座なども定期的に開催している。初めてで不安な人もサポート体制があることで継続しやすいし、希望すれば同じ活動を行う仲間とつながることもできる。ここにも新たなサイクルが生まれるかもしれない。
自分にも、未来にも優しい暮らし
堆肥ができあがったら、家庭菜園に用いて、野菜や花など、ガーデニングを楽しみたい。
「堆肥を使って育てた野菜は味が濃くて、本当においしいんです。出所が確かなので安心して食べられるし、栄養価が高いので健康になれます。私自身、全然病気に罹らないし、子供たちもずっと皆勤賞でした」
自分で何かを育てるということに満足感も得られるし、ヒーリング効果も望める。
「土と触れ合うと免疫力が上がるとも言われています。肉体的にも精神的にも健康寿命が延びると思いますね。街を歩いていても季節の移ろいに敏感になるし、スーパーなどで販売されている野菜を選ぶときも、見る目が変わってきます」。
家庭の生ごみが減り、家の中のニオイが少なくなるのも嬉しい。ただ、心配なのは虫の発生。どうしても苦手意識のある人もいるはずだ。
「虫は分解のお手伝いをしてくれて、栄養のある堆肥にしてくれるんです。コンポストをやってみると、微生物に自分たちの命が支えられていることに気づき、虫さえも愛おしいもののように思えてきます。外を歩けば落ち葉など、色々なものが資源に見えてきたり、色々なことを感じて疑問を持つようになったり。本当にものの考え方が変わってくるのがわかると思います。それがいずれ持続可能性に繋がる行動に結びついていきます」
ごみとして捨てていたものを栄養ある堆肥に。そして自分で育てた安全でおいしい野菜を食卓に。それは自分のためであり、未来のためでもある。捨てない循環生活を、ベランダから初めてみてはいかがだろう。