日常の器を金継ぎで楽しむ
金継ぎ(きんつぎ)とは、漆が持つ接着力を利用して、割れた陶器を接着し、その上から金による装飾を施したもの。器の割れ、欠け、ヒビ、の3つを修復することができる。
その歴史は古く、漆による修復は縄文土器にも見られる。
金で装飾して仕上げるのは、室町時代のお茶の文化から始まったとされている。
今回、金継ぎを教えていただいた大脇京子さんがカリフォルニアに住みながら金継ぎをしていた頃、“大切な日用品を修理して欲しい”という依頼を数多く受けたそう。
「持ち主の思い出がたくさんつまった器が、金色の筋模様を纏って再生され、とても喜んでくれました。
金継ぎは高価な茶道具や骨董の修理だけでなく、日常の器を再生する“身近な金継ぎ”として喜んでいただきたいと思うようになりました」
前編では、金継ぎの道具と、割れの修繕の方法を学ぶ。
次回の後編では、欠けの修繕と、金を蒔く仕上げの工程を教えていただく。
金、銀、プラチナの色の違いを楽しむ
金継ぎは、金を使うだけでなく、銀粉やプラチナ粉、錫粉を使い、器の色や雰囲気に合わせた仕上がりを楽しむこともある。口に入るものではない器であれば、真鍮粉を使うことも。
「TOPの写真のアスティエ・ド・ヴィラットも、プラチナ粉で仕上げています。
このカップは初めて買ったアスティエで、思い入れがある器です。残念なことに割れてしまい金継ぎしました。
金を蒔いたり、赤漆で仕上げたり、いろいろな材料で試してきました」
金継ぎは何度もやり直すことができる。
「漆は、グラグラと鍋で煮ると剥がれます。
金継ぎした器は破損前の状態に戻ったわけではありません。煮え立つお湯を注いだりしないようにしてください。食洗機や電子レンジにもかけないよう、やさしく扱ってくださいね」
金継ぎで直せる器は、陶器はもちろん、磁器も大丈夫。ガラスも直せないことはないけれど、ガラスの断面に漆が見えてしまうのでけっこうやっかいなのだそう。
金継ぎに使う材料を揃える
金継ぎに必要な道具は、下の写真のキャプションで紹介する13点。
「金には消粉と丸粉の2種類があり、目的によって使い分けます。最近、金の値段がどんどん上がっているので、ちょっと困っています(笑)」
漆も、接着に使う生漆と、素地を整えるための黒漆、金を撒く際に使う絵漆の3種類を準備する。
「金継ぎに必要な材料がセットになっている、堤淺吉漆店の『金継ぎコフレ』もオススメです」
割れた器を接着する
接着に使う漆は、生漆と強力粉を混ぜたものを使う。
「私はタイルの上で作っていますが、絵皿を使うのもよいでしょう」
割れた器の断面に練った漆を塗り、貼り合わせる。段差がないように確認しながらしっかりと合わせて接着し、マスキングテープで固定する。
漆は、28度前後、湿度60〜80%で最も乾燥が進む。
継いだ器は約一週間、温度と湿度を保った“室(むろ)”に入れて乾かす。
「私は木箱に電熱ヒーターと濡れた布を入れて室を作っています。
冬場と夏場では作業中の漆の乾燥の進みも変わります。特に赤うるしに金粉を撒く際は、乾いていないうちに金を撒くと沈んでしまうので注意が必要です」
次回のNo.2では、欠けを埋める作業と、いよいよ金を撒く工程を紹介。乞うご期待!
合成樹脂を使う金継ぎ
漆の代わりに合成接着剤を使う簡易的な方法もある。
漆を使った金継ぎは、漆を乾かすのに時間がかかるが、合成樹脂を使えばすぐに乾くので、金継ぎの時間が短縮できる。
「一日で終了する体験的な金継ぎワークショップでは、合成樹脂を使います。
接着剤を割れた断面につけて、ずれないように押し付けて15分ほど乾かします。
乾いたら、赤うるしを継いだ部分に塗って30分ほど乾かし、金を撒きます。その後は数日乾かしますが、教室では金を撒いて終了します」
ちなみに、接着剤は2液を混ぜ合わせるタイプの、比較的ゆっくりと接着する接着剤を使う。瞬間接着剤はつけた瞬間についてしまうので、ズレを修正できないのでオススメできないのだそうだ。