和のしつらえ「お月見」澄んだ夜空を見上げ、
月を愛でる十五夜
月で餅をつく兎は見えますか?
細やかな季節の移り変わりを大切にした花を発信している『花屋Fcrown』の橋本冠斗さんに、日本の文化を再発見できるしつらえを案内いただいた。
日本の秋の風物詩といえば、十五夜のお月見。平安時代に中国から伝わり貴族の間に広まり、江戸時代には広く庶民も楽しんでいた。平安貴族のように月を眺めるだけでなく、収穫の喜びを祝う意味も込められるようになった。
「ここまで大きく内容が変わった行事も珍しいと思います。江戸時代の庶民が楽しんだ十五夜には堅苦しい決まりはありません。自由に楽しめる懐の深さも魅力です」と橋本さん。
お月見に欠かせないのが《月見団子》。作物の収穫に感謝し、豊作を祈願する。
《ススキ》は神様のよりしろであるとも言われている。ススキと一緒にクズやナデシコなどの秋の七草をお供えしたり、農作物をお供えすることも。
「ススキを飾るのは関東のしつらえが多いようです。今回用意したのは葉に入った白い班が鷹の羽に見える“タカノハススキ”です」
月に《兎(うさぎ)》がいると言われるようになったのは、食べ物を乞う老人のために、私を食べてくださいと火の中に飛び込んだ兎を哀れみ、老人(実は帝釈天という神様)が月に蘇らせたという仏教説話から来ているとされている。
2023年の十五夜は9月29日の金曜日。
お餅とススキと兎を飾って、満月を楽しんではいかがでしょうか。
縁起ものの青藁で豆兎を作る
今回、上の写真のお月見のしつらえにある「豆兎」の作り方を教えていただいた。
「お月見は、作物の収穫に感謝する行事でもあります。
豆兎を、五穀豊穣を象徴する稲の藁(わら)を使って仕立てました」
藁細工の基本は、藁の縄を作ることから始まるのでハードルが高そうだが、ワイヤーを使えば初めてでも藁を綯(な)うことができる。
「藁の上部をワイヤーで留めて、1本づつ同じ方向に捻っていくと、2本の藁が絡みつくように一本になっていきます」
材料の青藁は、稲穂が出る前に刈り取ったもの。土がつかない、という意味で、土俵などにも使われる縁起のよいものとされる。
「藁は湿らせることでしなやかになり、細工しやすくなります。乾いてくると緩むので、ギュッとキツめに作るのがコツです」
日本人の身近にあった藁に触れる
豆兎は橋本さんが作っても、その度ごとに姿かたちに個性が出るとのこと。どんな兎ができあがるか、友だちと一緒に作っても楽しそうだ。
豆兎は橋本さんが作り方を考案した。
「ワイヤーを使って留めていく方法なら、藁細工の初心者でも挑戦できます。難しいという理由で稲藁細工の文化が廃れるより、簡単な方法で楽しんでいきたいと思っています」
桐箱を開けると季節が香る
一年は四季で分けられ、四季はさらに二十四節気に分けられる。ひとつの季節をこまかく区切ることで、日本人は季節の移り変わりを敏感に感じ取ってきた。「冬至」や「立春」など現代の私たちにも聞き馴染みのある季節の他にも、田植えの目安となる「芒種」や、暑さのピークを迎える「大暑」など、それぞれに季節感のある名前がつけられている。さらに細かな区分である七十二候は、中国で生まれ、日本の気候に合わせたもの。
季節の桐箱をデザインしている橋本さんに、「秋分」と「寒露」の桐箱を見せていただいた。
小さな桐箱の中に、愛おしい日本の季節が写し取られている。