
和のしつらえ「端午の節供」新緑を楽しめる苔玉に
兜の鍬形を飾る
身の安全を願い、兜を飾る
日本の細やかな季節の移り変わりを大切にした花を発信している『花屋 務』の橋本冠斗さん。日本の文化を再発見できるしつらえを案内いただいた。
5月5日は『端午の節句』。「端午」とは月の初めの午(うま)の日のことで、「午」の文字の音が「五」に通じることから、5月5日が端午の節句として定着した。やがて男子の節句ととらえられるようになり、出世や息災を願って鯉のぼりを立てたり、武者人形を飾るようになる。
「兜を飾るようになったのは鎌倉時代と言われています。武家は神社に兜や鎧、刀などを奉納し、身の安全を願うという慣わしがありました。兜は身体を守る防具であり、それを奉納することで、病気、災いから身を守ると考えていたようです。
時代と共に民間にも風習が広がり、江戸時代には、武具を持たない家庭では厚紙で作った兜を家に飾るようになりました」

苔玉に兜の鍬形(クワガタ)を飾る設え
植物のエネルギーを感じる新緑の季節
古代中国では、端午の節句に野に出て野草摘みをする習慣があった。日本でも5月最初の午の日に薬草とされる菖蒲(しょうぶ)を軒先に飾ったり、菖蒲湯に浸かる風習が始まったと言われている。柏の葉でくるんだ柏餅を食べたり、粽(ちまき)は笹の葉でくるまれている。植物が持つエネルギーを新緑の季節に生活に取り込んでいた。
今回、『花屋 務』の橋本さんに、植物のエネルギーを感じる苔玉を作り、そこに兜の鍬形(クワガタ)を飾る設えの作り方を教えていただいた。

苔玉を作り、そこに和紙で作った鍬形(クワガタ)のピンを挿す。

用意するもの:けと土、シート状のコケ(ハイゴケ)、ミシン糸、和紙、木工用ボンド、ロウソク、ハサミ、けと土を丸める時に使う容器、他にワイヤー。

和紙にボンドを塗りながらで貼り合わせ、厚みを出す。

貼り合わせた和紙をカットする。

兜の鍬形の形を作る。

指で整えながら、立体的な鍬形にする。

鍬形を苔玉に挿すための土台となるワイヤーを作り、ボンドを塗る。

和紙で作った鍬形とワイヤーを接着する。

苔玉の水分を吸わないようにするため、鍬形にロウを塗る。
和紙のクワガタにロウを塗っておく
兜のアイコンである鍬形(クワガタ)を、和紙を重ねて立体的に作る。鍬形を苔玉に挿す前に、ロウソクを使ってロウを塗り、水分が染み込まないようにしておくのがポイント。
「ロウを塗った後、ドライヤーで溶かしながら何度も塗り重ねると、和紙に水分が染み込みにくくなります」
苔玉に使うホソバオキナゴケは、山苔の名前でも流通しているコケで、杉の根元などに自生している。名前の通り小さく細い毛が密集して生ええる。育てやすく初心者向けの苔。成長がゆっくりなので、苔玉で使いやすい種類だ。

盆栽を作る際にも使われるケト土に、十分に水を含ませる。

4〜5cmの大きさに丸める。

丸めたケト土にコケをつけていく。

すべての面にコケを貼っていく。

コケがはがれないよう、ミシン糸をジグザグに巻いて固定する。

完成。コケが成長するにつれて糸は見えなくなる。

和紙で作った鍬形を苔玉に挿す。

『花屋 務』の橋本冠斗さん。季節のしつらえを発信・販売。ワークショップやイベント、ホテルやショップの装花で活躍中。

コケの成長も楽しめる端午の節句の設えが完成
厄除けに菖蒲を飾る
蓬(よもぎ)と菖蒲(しょうぶ)は強い香りを放つことから、厄除けの効果があると信じられており、屋根の上にのせる軒菖蒲や、菖蒲湯として用いるなど重要な植物だった。また、菖蒲が「尚武」や「勝負」に通じることから、端午の節句によく飾られるようになった。
「端午の節句には欠かせない蓬菖蒲を仕立てました。蓬の葉は薄和紙を裏打ちし、蓬の葉の表と裏を表現しています」

和紙で仕立てた菖蒲と蓬を吊るして飾る。
