自宅で刺繍教室をひらくブロドリー作家が暮らす
手作りとアンティークの空間
刺繍教室を想定した物件探し
「内見したときに眺めの良さが気に入って、入居を決めました。住んでみると、見晴らしがいいのはもちろん、東南の角部屋なので光もたっぷりと入ってきて。最寄り駅から近く、地方から来る生徒さんにも通いやすいアクセスの良さもポイントでした」と武井さん。光がたっぷりと入るLDKは20畳以上の広さがあり、アンティークの家具と武井さんの作品が空間を彩る。ふだんはダイニングテーブルを置いているが、教室の開催時には刺繍台を並べる。美しい調度品に囲まれた空間は、生徒さんにも好評なのだという。
会社を辞めて、パリに刺繍留学へ。
「バブルの頃だったこともあり、ヨーロッパの一流品やハイブランドにハマっていたんです。でもバブルがはじけた頃から、また作りたい衝動に駆られ、友人のお誕生日にアクセサリーなどを作るようになりました」。
次第に手作りの作品に対する依頼が増え、十分な制作時間が取れなくなるほどに。そこで武井さんは仕事をやめ、手作りを本業にすることを決意。パリの有名刺繍学校へ留学を果たす。
「仕事にするなら独学のままではいけないと思い調べたところ、オートクチュールの刺繍では世界一と言われる『エコール・ルサージュ』というパリの学校を知りました。入学できるかどうかもわからなかったので、とりあえず自分の作ったバッグを携えて、見学に行ったところ、校長が『あなたはうちに来るべきよ』と声をかけてくださって、いきなり入学が決まったんです。学校に通い始めてからは、毎日が目から鱗の連続。刺繍の世界がどんどんと広がって、すごく楽しくなっていきました」。
本場の技術を学んだ武井さんは、帰国後に刺繍教室を開講。フランスから仕入れたオートクチュールトップメゾンと同じ素材を用いた作品づくりは評判を呼び、徐々に生徒さんが集まっていった。
「長年続けてくださる生徒さんも多いんです。育児や介護などでお休みしていて何年越しかに戻ってきてくださる方もいらっしゃいます」。
作り手の思いを感じるアンティークに囲まれて
そんなアーティスティックなご夫妻と愛犬のレオちゃんが暮らすこの住まいには、国も時代も違う様々なアンティークに囲まれているが、不思議と統一感がある。
「作った人が見えるものが好きなんです。作品への思いが感じられて、作り手みんなと一緒に暮らしている感じです(笑)。私がひと針ひと針手作りのものを作っているので、そういった作品を求めているのかもしれません」と話す武井さん。
最後に創作のインスピレーションの源について伺った。
「ちょっとした瞬間に、ぱっと完成形が頭によぎるんです。いろんな場所で目にしたものや聞いたものが、ふいに形として降りてくるんです。私も説明できなくて、それがいつも不思議だなと思うんですけど。どこで何が引っかかるかわからないので、常にアンテナは張っています」。