自宅で刺繍教室をひらくブロドリー作家が暮らす 手作りとアンティークの空間

自宅で刺繍教室をひらくブロドリー作家が暮らす
手作りとアンティークの空間

刺繍教室を想定した物件探し

ブロドリー作家の武井佳子さんが暮らすのは、世田谷区内の築20年ほどの賃貸マンションの一室。入居したのは13年前のことだ。当時、中野坂上で刺繍教室を開講していた武井さんは、自宅兼教室となる物件を探していた。

「内見したときに眺めの良さが気に入って、入居を決めました。住んでみると、見晴らしがいいのはもちろん、東南の角部屋なので光もたっぷりと入ってきて。最寄り駅から近く、地方から来る生徒さんにも通いやすいアクセスの良さもポイントでした」と武井さん。光がたっぷりと入るLDKは20畳以上の広さがあり、アンティークの家具と武井さんの作品が空間を彩る。ふだんはダイニングテーブルを置いているが、教室の開催時には刺繍台を並べる。美しい調度品に囲まれた空間は、生徒さんにも好評なのだという。

遠くまで見通せる眺望の良さも、ここを借りる決め手になった。広いバルコニーには、グリーンや小物を置いて楽しんでいる。

遠くまで見通せる眺望の良さも、ここを借りる決め手になった。広いバルコニーには、グリーンや小物を置いて楽しんでいる。

家具はすべてアンティーク。壁面には作品を額装して飾っている。

家具はすべてアンティーク。壁面には作品を額装して飾っている。

キッチン側の壁には造り付けの棚があり、冷蔵庫などをほどよく隠しながら収納できる。

キッチン側の壁には造り付けの棚があり、冷蔵庫などをほどよく隠しながら収納できる。

キッチンカウンター上の小物入れには、武井さんの作品がぎっしりとディスプレイされている。

キッチンカウンター上の小物入れには、武井さんの作品がぎっしりとディスプレイされている。

会社を辞めて、パリに刺繍留学へ。

お母さまの影響で子どもの頃からアンティークや手作りのものが好きだったという武井さん。自分自身も独学で手作りのものを作っていたが、会社勤めを始めてからは、一時手作りからは遠ざかっていたという。
「バブルの頃だったこともあり、ヨーロッパの一流品やハイブランドにハマっていたんです。でもバブルがはじけた頃から、また作りたい衝動に駆られ、友人のお誕生日にアクセサリーなどを作るようになりました」。

次第に手作りの作品に対する依頼が増え、十分な制作時間が取れなくなるほどに。そこで武井さんは仕事をやめ、手作りを本業にすることを決意。パリの有名刺繍学校へ留学を果たす。
「仕事にするなら独学のままではいけないと思い調べたところ、オートクチュールの刺繍では世界一と言われる『エコール・ルサージュ』というパリの学校を知りました。入学できるかどうかもわからなかったので、とりあえず自分の作ったバッグを携えて、見学に行ったところ、校長が『あなたはうちに来るべきよ』と声をかけてくださって、いきなり入学が決まったんです。学校に通い始めてからは、毎日が目から鱗の連続。刺繍の世界がどんどんと広がって、すごく楽しくなっていきました」。
本場の技術を学んだ武井さんは、帰国後に刺繍教室を開講。フランスから仕入れたオートクチュールトップメゾンと同じ素材を用いた作品づくりは評判を呼び、徐々に生徒さんが集まっていった。
「長年続けてくださる生徒さんも多いんです。育児や介護などでお休みしていて何年越しかに戻ってきてくださる方もいらっしゃいます」。

ダイニングテーブルを片付け、部屋をお教室仕様に。刺繍台は特注してつくってもらったオリジナル。右手の半透明の建具の奥が武井さんのアトリエスペース。

ダイニングテーブルを片付け、部屋をお教室仕様に。刺繍台は特注してつくってもらったオリジナル。右手の半透明の建具の奥が武井さんのアトリエスペース。

教室では、生徒さんに対面するかたちで一つひとつの技を教える。

教室では、生徒さんに対面するかたちで一つひとつの技を教える。

アンティークの引き出しには、作品づくりに使う材料が整然と並べられている。

アンティークの引き出しには、作品づくりに使う材料が整然と並べられている。

作品のティアラを、アンティークのショーケースに飾って。

作品のティアラを、アンティークのショーケースに飾って。

ダイニングに隣接するアトリエで、自らの作品づくりをする武井さん。

ダイニングに隣接するアトリエで、自らの作品づくりをする武井さん。

メッシュの上から極細の針を通し、下のビースをすくって縫い付けていく。独特の技法で、日本でマスターしている人は数少ないのだそう。

メッシュの上から極細の針を通し、下のビースをすくって縫い付けていく。独特の技法で、日本でマスターしている人は数少ないのだそう。

トンボと蜂のブローチ。武井さんの作品の中でもシンボル的な存在。

トンボと蜂のブローチ。武井さんの作品の中でもシンボル的な存在。

立体的な羽が特徴的な蝶の作品。とりわけ難しい技法をマスターしないとつくることができない。

立体的な羽が特徴的な蝶の作品。とりわけ難しい技法をマスターしないとつくることができない。

カシミアのセーターに、ブロードリー作品のブローチを。

カシミアのセーターに、ブロードリー作品のブローチを。

パリで修行する以前に、独学でつくったバッグ。金具などもアンティークのものを探してつくった。

パリで修行する以前に、独学でつくったバッグ。金具などもアンティークのものを探してつくった。

作り手の思いを感じるアンティークに囲まれて

武井さんのご主人・名取敏行さんは、東京を拠点に演劇のプロデュースをしている名取事務所の代表。近年ではサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を劇作家の別役実がパロディー化した作品『やってきたゴドー』を国内外で上演し、海外でも高い評価を得ている。
そんなアーティスティックなご夫妻と愛犬のレオちゃんが暮らすこの住まいには、国も時代も違う様々なアンティークに囲まれているが、不思議と統一感がある。
「作った人が見えるものが好きなんです。作品への思いが感じられて、作り手みんなと一緒に暮らしている感じです(笑)。私がひと針ひと針手作りのものを作っているので、そういった作品を求めているのかもしれません」と話す武井さん。

最後に創作のインスピレーションの源について伺った。
「ちょっとした瞬間に、ぱっと完成形が頭によぎるんです。いろんな場所で目にしたものや聞いたものが、ふいに形として降りてくるんです。私も説明できなくて、それがいつも不思議だなと思うんですけど。どこで何が引っかかるかわからないので、常にアンテナは張っています」。

シンプルなキッチンも、マグネットなどで武井さん流に楽しくアレンジ。対面式のシンクのあるカウンターに作品をディスプレイしている。

シンプルなキッチンも、マグネットなどで武井さん流に楽しくアレンジ。対面式のシンクのあるカウンターに作品をディスプレイしている。

玄関ホール。廊下の突き当たりがLDK。

玄関ホール。廊下の突き当たりがLDK。

玄関のしつらえ。季節ごとのデコレーションを楽しみにする生徒さんも多い。

玄関のしつらえ。季節ごとのデコレーションを楽しみにする生徒さんも多い。

愛犬レオちゃんの首元には水晶を加工したブレスレットとパリの有名な聖地「奇跡のメダイ教会」のメダルが。

愛犬レオちゃんの首元には水晶を加工したブレスレットとパリの有名な聖地「奇跡のメダイ教会」のメダルが。

ご主人の名取さんがプロデュースする舞台「帽子と預言者」「鳥が鳴き止む時−占領下のラマッラー」のフライヤーと、武井さんの龍の作品。

ご主人の名取さんがプロデュースする舞台「帽子と預言者」「鳥が鳴き止む時−占領下のラマッラー」のフライヤーと、武井さんの龍の作品。

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