昭和のヴィンテージマンションに暮らす 古いものの味わいをミックス 愛するものを眺める住まい

昭和の名作マンションに暮らす古いものの味わいをミックス
愛するものを眺める住まい

竣工時の面影を活かして

都心にあって緑が豊かで、歴史や文化を感じられる街。雑貨店「塔屋」を営む和田基樹さんは、この街の高台に建つ築60年のヴィンテージマンションがずっと気になっていた。
「店の近くで探したいということもあったのですが、ここはなかなか空きがでなくて。江戸川公園沿いに建っていて、窓から広がる緑の景色も気に入り、すぐに決めました」。
近くには丹下健三の「東京カテドラル聖マリア大聖堂」や「ホテル椿山荘東京」など、有名建築や庭園が点在。昭和の名作と言われるこのマンションには、かつて文豪も住んでいたと言う。
「同時に、リノベーションされていない、初期の頃の雰囲気が残る部屋だったことも気に入りました。本当はモダンな感じの方が好きなのですが、白×グレーのシンプルな空間に仕上げている例も多いため、竣工当時の面影が残っているのも逆に面白いかなと。賃貸なので内装を変えることはできないのですが、この味わいを活かして暮らしてみたいと思いました」。
48㎡の2LDK。開口の向こうには緑が茂る。R型の仕切りがリビングとキッチンを緩やかに分ける。

48㎡の2LDK。開口の向こうには緑が茂る。R型の仕切りがリビングとキッチンを緩やかに分ける。

右側の備え付けの収納棚に合わせて、インテリアを考えた。

右側の備え付けの収納棚に合わせて、インテリアを考えた。

引き戸で仕切ることもできるが、開放してひとつながりのLDKに。

引き戸で仕切ることもできるが、開放してひとつながりのLDKに。

美しく見せるディスプレイのコツ

当初から備わっていたアール型の間仕切りの壁、備え付けの木製の収納棚など、温かみのある設えに合わせて空間をコーディネートしていった。
「以前に勤めていたCLASKAでは、店舗のコーディネートも任されていました。自分なりの空間アレンジは感覚的に身に付いたところはあるかもしれません」。
ベランダに面したリビングには、カイ・クリスチャンセンのアンティークのキャビネットを置き、その上にお気に入りの雑貨をあしらった。
「持っていたキャビネットが収納棚と同様の色味だったため、並べてみました。ただ、全体が茶色の空間なので、あまり茶系ばかりで揃えてもほっこりし過ぎてしまいます。それを避けるために余白を意識したり、白い雑貨を足すようにしたりしています」。
収納棚の扉を開くと、中もディスプレイスペースに。生活感のあるものは3畳の和室にまとめておき、寛ぎたい場所では好きなもののディスプレイを楽しんでいるそうだ。ディスプレイのコツはと聞くと、
「ものの高低差は意識しつつ配置します。色味や素材もきっちり統一するとつまらなくなるので、差し色をしてみたり、違う質感のものを加えたりして、あえてチグハグな感じを出していますね」。
カイ・クリスチャンセンのアンティークのキャビネット。扉が蛇腹になっている。壁には歌川広重の浮世絵の原画が。「江戸時代の地形図などにも興味があります」。

カイ・クリスチャンセンのアンティークのキャビネット。扉が蛇腹になっている。壁には歌川広重の浮世絵の原画が。「江戸時代の地形図などにも興味があります」。

キャビネット上をディスプレイ。国、年代は様々に、四角いものと丸いものを組み合わせて。

キャビネット上をディスプレイ。国、年代は様々に、四角いものと丸いものを組み合わせて。

木の小箱があると小物収納に便利。たくさん揃えて活用している。

木の小箱があると小物収納に便利。たくさん揃えて活用している。

リビングの収納棚の左側扉の中。古いものに手を加えて作品にする美術家・澄敬一の作品が中心。

リビングの収納棚の左側扉の中。古いものに手を加えて作品にする美術家・澄敬一の作品が中心。

上段のピッチャーは陶芸家・竹田道生の作品。中段はフランスのカフェオレボウル。高低のバランス、色や素材の加え方などが絶妙に計算されている。

上段のピッチャーは陶芸家・竹田道生の作品。中段はフランスのカフェオレボウル。高低のバランス、色や素材の加え方などが絶妙に計算されている。

アルヴァ・アアルトの50年代のテーブルに、アーコール、ボーエ・モーエンセンのヴィンテージのイスを。アルミの四角いトレーもインテリアのひとつ。

アルヴァ・アアルトの50年代のテーブルに、アーコール、ボーエ・モーエンセンのヴィンテージのイスを。アルミの四角いトレーもインテリアのひとつ。

気になるモノを集めて

ベッドサイドにも、もともと天井までの高さの造作の棚が備わっていた。
「寝るスペースなので割れものはあまり置きたくないのですが、ここでもディスプレイを楽しみたいと思いました。単調にならないよう、数を考えてものを配置しています」。
一段に3つのものを置いたら、次の段は2つにしたり、1つに絞ったり。色、素材を揃えすぎず、さり気なく外してバランスよく。
「アルミニウムの質感、四角いトレーの形、片口の器…、そういったものが好きなんです。見つけたら購入して楽しんでいます」。
古道具に加えて、和田さんが特に惹かれているのが、美術家・澄敬一さんの作品。
「鍋の一部だったり、洗濯板だったり、日常的に使われていた古いものに手を加えて、ユーモアのあるオブジェなどの作品に仕上げる作家さんなんです。作品の持つ雰囲気にとても惹かれます」。
余白を持たせつつ、数量、素材、色、形を考慮して配置。フィリップ・ワイズベッカーのアートブックの上の片口の器は、古い瀬戸のもの。下段の木の板、その上のグレーの皿は、澄敬一の作品。

余白を持たせつつ、数量、素材、色、形を考慮して配置。フィリップ・ワイズベッカーのアートブックの上の片口の器は、古い瀬戸のもの。下段の木の板、その上のグレーの皿は、澄敬一の作品。

林青那の絵を飾る。収納棚のオープンなスペースには、小引き出しをアレンジして本を収納。

林青那の絵を飾る。収納棚のオープンなスペースには、小引き出しをアレンジして本を収納。

収納棚の扉の中。木の器とバックの本の茶色に、アルミのコップをコーディネート。

収納棚の扉の中。木の器とバックの本の茶色に、アルミのコップをコーディネート。

歴史を感じつつ、ゆったりと過ごす

木とタイルが用いられたキッチンは、温かく懐かしい雰囲気。フランスのアンティークから現代の作家ものまで、気に入ったものを揃えた器で、妻の作る料理を楽しむ。
「食事をしたり、アートブックを眺めたり、家でゆっくりする時間を楽しんでいます。休日には個展などに出かけたり、近所を散歩したり。地形に興味があって、この街がどうやってできたのか考えながら歩いてみたりするのも楽しいですね」。
歴史ある街に建つヴィンテージマンションの1室に、ゆったりとした時間が流れていた。
クラシックな雰囲気のキッチン。昔の雰囲気をそのまま残している。

クラシックな雰囲気のキッチン。昔の雰囲気をそのまま残している。

木材パルプや綿を原料として作られたランプシェードは、藤城成貴の作品。

木材パルプや綿を原料として作られたランプシェードは、藤城成貴の作品。

ビールにはカイ・フランクかピーター・アイビーのグラス、日本酒には鈴木照雄のぐい呑みなどを愛用。

ビールにはカイ・フランクかピーター・アイビーのグラス、日本酒には鈴木照雄のぐい呑みなどを愛用。

廊下の収納棚を食器棚に。フランスや北欧のアンティークから吉田直嗣、一柳京子など日本の現代作家の器まで。

廊下の収納棚を食器棚に。フランスや北欧のアンティークから吉田直嗣、一柳京子など日本の現代作家の器まで。

木箱は澄敬一の作品。金沢の金工作家・竹俣勇壱のカトラリーなどを収めている。

木箱は澄敬一の作品。金沢の金工作家・竹俣勇壱のカトラリーなどを収めている。

文京区目白台の雑貨店「塔屋」オーナー、和田基樹さん。予備校職員、CLASKA Gallery & Shop

文京区目白台の雑貨店「塔屋」オーナー、和田基樹さん。予備校職員、CLASKA Gallery & Shop “DO”を経て独立。築50年の木造平屋をリノベーションして、2020年に「塔屋」をオープン。

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