住まい手が見える住空間 プリマの楽屋をイメージした バレエ愛あふれる部屋づくり

住まい手が見える住空間プリマの楽屋をイメージした
バレエ愛あふれる部屋づくり

人を招き案内できる住まいを目指して

神奈川県横浜市内にあるバレエスタジオ『エルヴェ バレエ アカデミー』を主宰する上原延里江さんは8年前に3LDKの物件を購入し、アトリエを兼ねた住まいにリノベーションをした。自宅はスタジオに通う教え子たちとの交流の場であり、衣装を仕立てる作業部屋にもなっている。私生活でも大好きなバレエを強く意識したいという思いから、劇場の楽屋や衣装部屋をイメージしリノベした。
6歳の頃から習っていたバレエの影響で、ヨーロッパの雰囲気を感じる家に住みたいという思いがあったという。そんな気持ちを後押ししたのは、スタジオを開業した後にフランスに行った時だった。フランス人の友人宅に泊めてもらった際に衝撃を受けたという。
「彼らはお客様を自宅に招くのが当たり前で、家の中を隅から隅まで案内してくれました。フランス人の気軽に人を招く習慣を真似したいと思いました」
住まい手を体現した住空間に人を招き案内する習慣に共感したという上原さん。その言葉通り、上原邸はゲストが来ることを前提に作られた住まい手を見せる空間になっている。
奥の仕事部屋とリビングを仕切っていた引き戸を、ガラス入りの折り戸に変えた。このため、日光がリビングまで届き空間を広く見せる。

奥の仕事部屋とリビングを仕切っていた引き戸を、ガラス入りの折り戸に変えた。このため、日光がリビングまで届き空間を広く見せる。

リビングにはリヤドロ社製の陶器人形など、渡欧した際に購入した品々が並ぶ。自宅に人を招いた際に、これらが会話の種になる。

リビングにはリヤドロ社製の陶器人形など、渡欧した際に購入した品々が並ぶ。自宅に人を招いた際に、これらが会話の種になる。

劇場の舞台裏をイメージした部屋づくり

リビングはフランスの劇場にある楽屋をイメージした。
「主役級になると、このリビングぐらいの楽屋を用意してもらえます。本番後にみんながワインやお花を持ってきてくれる素敵な空間なんですね。そういう雰囲気を表現してみました」
レンガ模様の壁紙の色は、部屋が広く見えるように白を選んだ。ベースカラーの白に、床や家具などで暖色系の淡いベージュをアクセントに配することで空間に柔らかい印象を与える。
「バレリーナとして活躍していた20代は、舞台本番が大好きでした。総合芸術と言われるバレエの、非現実的な空間が魅力的なのです。それで、住む家も非現実的なものにしたいと思いました」
玄関を入ってまず目に飛び込んでくる舞台衣装を着たマネキンも、非現実を作り出すための工夫の一つ。
「自宅に戻ってきても、安心するのではなくて、舞台での程よい緊張感から生まれるワクワクを感じたいと思い、玄関を開けてすぐ見える位置にマネキンを置きました」
折り戸でリビングと仕切られた先は、劇場の衣装部屋をイメージして作られた仕事部屋。衣装の裁縫やスタジオの資料作成等を行う。
「母から、バレエが好きなら早いうちから職業として考えなさいと言われていました。それで中学の時に大好きなバレエ関係の仕事を将来の職業にしようと決めました。ただ、続けるうちに身長や骨格の問題でダンサーは無理だとわかりました。けれども何かのカタチでバレエに関わりたいと考えて、たどり着いたのが指導と衣装でした」
バレエ団のレッスンに通いながら服飾の専門学校に通った上原さん。裁縫道具や服飾が並ぶ仕事部屋は、そんな彼女の人生の一端を映す。
常にバレエで感じる華やかさを意識できるよう、楽屋をイメージしてリビングをレイアウトした。

常にバレエで感じる華やかさを意識できるよう、楽屋をイメージしてリビングをレイアウトした。

バレエの発表会で使うドレスなどで、定期的に着せ変えをする。

バレエの発表会で使うドレスなどで、定期的に着せ変えをする。

サルタレッリ・モビリ社のダイニングテーブル。角を気にせずゲストが座れるよう楕円形のテーブルを選んだ。

サルタレッリ・モビリ社のダイニングテーブル。角を気にせずゲストが座れるよう楕円形のテーブルを選んだ。

子どもたちの独立に伴い、自身の寝室だった部屋を仕事部屋にした。

子どもたちの独立に伴い、自身の寝室だった部屋を仕事部屋にした。

教え子たちの舞台衣装や知り合いのモデル衣装の手直しを自宅でおこなう。

教え子たちの舞台衣装や知り合いのモデル衣装の手直しを自宅でおこなう。

人を招くことで完成する理想の家

非現実を目指し、舞台裏の楽屋や衣装部屋を意識した空間づくりは、バレエを仕事としていることに関係がある。
「幼い頃バレエのレッスンから自宅に帰ると畳部屋があって、それを見ると現実に戻る感じで、テンションをコントロールするのが大変でした。スタジオが舞台なら、家は舞台裏で半分仕事場。現実味のない部屋を目指しているのは、職場であるスタジオとのギャップをなくすためです」
8年前に物件を購入した際に、壁や床など大枠のリノベを済ませたが、部屋作りを本格的に始めたのは2人の子供が独立した1年前。
「長男の部屋を私の寝室に、寝室だった部屋を仕事部屋に、次男の部屋を客室にしました。子供たちには内緒にしていましたが、彼らが自立したら家を、どのようにアレンジしようか前々から考えていたんです」と笑顔で話す上原さん。子育てを終え、次の楽しみとして理想の住空間づくりに力を入れる。
「お客さんや親類を招いて食事会をしたり、教え子たちとレッスンや発表会のDVDを見たり、クリスマスパーティとか卒業・就職祝いをしたりできるようになりました」
アトリエではあるけれど、自分だけでなく人を招き入れ楽しめる空間にしたい。それはまさにプリマの楽屋。そんな上原さんの真っ直ぐなバレエ愛を体現する空間が広がっている。
ロシアをテーマにした寝室にはバレエの関係で同国に行った際に購入した品々が飾られている。

ロシアをテーマにした寝室にはバレエの関係で同国に行った際に購入した品々が飾られている。

棚に立てかけられているのは世界最高峰のバレエアカデミー ワガノワ・バレエ学校校長ニコライ・ツィスカリーゼの直筆サイン入りポスター。

棚に立てかけられているのは世界最高峰のバレエアカデミー ワガノワ・バレエ学校校長ニコライ・ツィスカリーゼの直筆サイン入りポスター。

バレエ写真家マーク オリッチのカレンダーの横にあるのはパリオペラ座劇場で購入したチュチュ型ミラーと上原さんが現役最後の舞台で使ったシューズ。

バレエ写真家マーク オリッチのカレンダーの横にあるのはパリオペラ座劇場で購入したチュチュ型ミラーと上原さんが現役最後の舞台で使ったシューズ。

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