和のしつらえ「掛蓬莱」辰年に飾りたい
縁起のいいお正月飾り
ヒカゲノカズラを龍に見立てる
九月にお月見のしつらえ、十月に実りの秋に感謝する「神嘗祭」のしつらえを教えていただいた『花屋Fcrown』の橋本冠斗さんに、「掛蓬莱」をご案内いただいた。
2024年は辰年。中でも、41番目に当たる甲辰(きのえたつ)で、「甲」は十干の始まりにあたり、生命や物事の始まりを意味する。
「辰は物事を全てうまく行く方へ導き、天高く昇る龍に守られ、十二支の中で最も縁起の良い生き物とされています。
蓬莱山に昇る龍を表す掛蓬莱は、2024年の新年をお迎えするのにふさわしいお正月飾りです。雪の下でも青々とした緑をたたえるヒカゲノカズラというシダ植物の瑞々しい緑は、とても縁起のよい植物とされています」
ヒカゲノカズラは古代から祭事に使われ、古事記の「天照大神の岩戸隠れ」の話には天鈿女命(アメノウズメ)が岩戸の前で、「天香山(アメノカグヤマ)の日蔭鬘(ヒカゲカズラ)を手襁に懸け」という記述があり、ヒカゲノカズラをまとって踊った、とされている。
天皇陛下の即位に伴う「大嘗祭」の中心的な儀式「大嘗宮の儀」で、衛門は冠にヒカゲノカズラを飾り、天皇が通る雨儀御廊下には天井からヒカゲノカズラが吊り下げられていた。
平安時代から京に伝わる格式あるお正月飾り「掛蓬莱」で、新たな年を迎えたい。
長く美しいヒカゲノカズラを使う
地面を這うように広がるヒカゲノカズラは身近で目にすることもある植物だが、採取するうちに切れてしまうので長いものは珍しい。
「生花店に声をかけておいて、長いものを取り寄せてもらうとよいでしょう。
ヒカゲノカズラは飾るうちに乾燥してきますが、そのままドライとして楽しめます」
「遥か昔から人間は祈りや願いを形にし、それを頼りに生きてきました。しかし、時代とともに、祈りや願いという曖昧な感覚の表現が減っています。
花と手仕事で伝統を再構築し、少しでも日本の文化を残すお手伝いができればと思っています」
一年のしめくくり。雪の季節の桐箱
橋本さんは、日本の細やかな季節の移り変わり……二十四節気を桐箱の中にデザインしている。
「小雪」「大雪」と、山間部から次第に平野部へと雪が降り広がっていく季節。「冬至」の柚子湯は厄災をはらうとされ、江戸の人々が楽しんだ催し湯のひとつとされている。
2023年は暑い夏が長く秋が短く、地球温暖化を感じざるを得ない年だった。いつまでも二十四節気七十二候を楽しめる、日本の繊細な季節の移り変わりが続くよう願うばかりだ。