日常をアートに 現代アーティストが暮らす 自宅兼アトリエ空間

日常をアートに現代アーティストが暮らす
自宅兼アトリエ空間

イタリア人外交官から受け継いだレトロな一室

墨田区両国。築50年の建物の一角に現代アーティスト獅子倉シンジさんの自宅兼アトリエがある。周辺は相撲部屋や芥川龍之介の生家がある一方で、クラブやライブハウスがあり、一色には表現できない多彩なエリア。
物件との出会いはイタリア大使館との繋がりだった。
「元々は大使館のパーティーで知り合い懇意にしていたイタリア人外交官の住居でした。その外交官がここに泊めてくれた時に部屋の広さが気に入りまして。彼は家具をほとんど置かなかったので広く見えたんですね。普段から静かな点も気に入っています。昔は御茶ノ水や神田に大名たちが住んでいて、この辺はそんな彼らの別荘地だったり文化人が住む場所だったようです」
大家さんがイタリアとアート好きという共通点があり意気投合。友人の外交官が退居したら自分が入居したいと伝えるほど気に入った。
アーティストとして本格的に活動を始めた20年以上前から住み続けている空間には枠に囚われない作風を持つ獅子倉さんの世界観が広がる。
リビングの南側には、山の中に籠もってモーツァルトのジュピターを聴きながら即興で書いた巨大なアクリル画作品「ジュピター」が飾られている。

リビングの南側には、山の中に籠もってモーツァルトのジュピターを聴きながら即興で書いた巨大なアクリル画作品「ジュピター」が飾られている。

引っ越し当時から変わらないダークブラウンの床とダークレッドの扉という組み合わせが、全体的に落ち着いた空間を作り出す。

引っ越し当時から変わらないダークブラウンの床とダークレッドの扉という組み合わせが、全体的に落ち着いた空間を作り出す。

『日常のアート化とコミュニケーション』で芸術をより身近に

現代アーティストとして絵画、彫刻、陶芸、パフォーマンス、ファッション、映画制作など幅広いジャンルで活動する獅子倉さん。国内にとどまらず、アジアやヨーロッパなど海外でも活躍しており、今秋には御茶ノ水で行われる『お茶の水 アートピクニック』の出演が決まっている。
獅子倉さんを一躍有名にしたのは2001年にBEAMS GALLERYでの個展開催がキッカケで実現した『獅子倉シンジ・新宿バケツ☆ストリート』。約1ヶ月に及び、街をアート作品に変容させる社会芸術だった。色とりどりの三角コーンを頭に被った女子高生たちが街を練り歩くパフォーマンスや、通り一帯にある街頭に三角コーンがプリントされたフラッグを飾った展覧会が国内外で大きな話題に。
「新宿中央通発展会からは予算は気にせずアートで話題が作れることをしてくれと依頼がありました。そこで、新宿中央通りでバケツをテーマにした展覧会やパフォーマンスを行ったら、国内外のメディアから注目されたんです」
活動のテーマは『日常のアート化とコミュニケーション』。
美術館にいかない人も芸術に触れることができるよう、自分から外に出て日常をアートにすることで身近にし、時には観覧者が作品の一部となり参加しアートとコミュニケーションを取ってもらう。
バケツを使ったパフォーマンスは各地の美術館だけでなくFIFA日韓W杯記念文化催事でも行われた。
「身近にある物の意味を変化させることで、日常を変えます。例えば、バケツは液体をキープしたり、運んだりする物なので穴を開けたら意味がなくなる。だから最初に穴を開けて、バケツの意味を変化させるんです」
作品や機材、素材が自宅の所々に置かれているのは、日常をアートにしたいという自身の活動テーマを体現しているかのようだ。
新宿中央通りでのアートパフォーマンスが紹介された『The Japan Times』の記事。様々なメディアで大きく取り上げられた。

新宿中央通りでのアートパフォーマンスが紹介された『The Japan Times』の記事。様々なメディアで大きく取り上げられた。

コミュニケーションのシンボルである目は重要だと語る獅子倉さん。作品『目ヂカラ』はバケツの蓋にペインティングして制作した。

コミュニケーションのシンボルである目は重要だと語る獅子倉さん。作品『目ヂカラ』はバケツの蓋にペインティングして制作した。

ダイニングスペースはアトリエとして使われている。正面にある木製の扉は作品の素材。

ダイニングスペースはアトリエとして使われている。正面にある木製の扉は作品の素材。

獅子倉さんが尊敬するジョン・レノンとオノ・ヨーコの直筆サイン入り写真が飾られている。

獅子倉さんが尊敬するジョン・レノンとオノ・ヨーコの直筆サイン入り写真が飾られている。

生活がアートになる総合アーティストの生き方

アーティストを志したのはミケランジェロやダヴィンチがきっかけだという。イタリア好きの原点もここにある。
「ありとあらゆる事ができる彼らに対して、一人の人間がこんなにできるんだと恐怖感がありました。底がないアーティストなんてできるのかなと。でも一晩考えて、一生かけても底が見えないのは面白そうだなと思い直しました」
“万能の人”とも称される二人に感化されアーティストになると決めた獅子倉さんの活動は多岐にわたる。
「絵とかビジュアル的なものがメインですが、やっているのは総合的なアーティストです。コンサートは音楽だけではなくアーティストのファッション、ライティング、舞台セット、歌詞は文学ですし、色々な要素が入っていますよね。それに似ていて、あくまで自分は画家で、そこに様々な要素を付け足して総合的な作品を作っています」
アトリエに籠もらず、ガラス工房や陶芸窯など様々な所に出かけ、挑戦し自身の作品と繋がる物を探す。
「生活がアートです。時間を決めて何かをするのではなく、色々なものを感じたり思いついたり、それが仕事中とは限らない。寝てる時だってそうです」
美術館から飛び出し日常をアートにする獅子倉さんにとって、住居は単に住む場なのではなく、アートそのものになっている。
総合プロデューサーとして、告知で使われる個展のポスターやオリジナルグッズなども自身で手掛ける。

総合プロデューサーとして、告知で使われる個展のポスターやオリジナルグッズなども自身で手掛ける。

アトリエにあるDJテーブル。右上の食器棚には一部本人の陶芸作品が並ぶ。

アトリエにあるDJテーブル。右上の食器棚には一部本人の陶芸作品が並ぶ。

大学に講師として招かれた際に作成した木製の空き缶(真ん中2つ)。部屋の至る場所に作品が置かれている。

大学に講師として招かれた際に作成した木製の空き缶(真ん中2つ)。部屋の至る場所に作品が置かれている。

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